東京農工大学科学博物館支援学生団体 musset 『みゅぜっとにゅ〜す』

東京農工大学科学博物館学生支援団体mussetの公式ブログです。

紙コップのおもちゃで「流体」を伝える

2019年度5月サイエンスマルシェは「空飛ぶコップを作ろう」を実施した。空飛ぶコップとは、この日のメインコンテンツとして用意した、2つの紙コップを底で合わせて繋げるだけで簡単に作れるおもちゃ「マグヌスコップ」のことだ。
 輪ゴムを数個繋げて作ったゴム紐をコップに何度か巻きつけて手を離すと、コップは回転しながら飛んでいく。浮かび上がってから落下したり、一回転したり……コップの不思議な動きは、「マグヌス効果」という物理現象によるもので、今回は流体力学(※)に親しむための題材として取り上げた。
流体力学:水、油、空気など「流れるもの」=流体の物理現象を研究する学問。

f:id:tuat_musset:20200513220617p:plain

図1 マグヌスコップの飛ばし方。この状態で紙コップを持つ方の手だけを離すと、コップは回転しながら前方に飛んでいく。

 実は、マグヌスコップをサイエンスコミュニケーション(以下、SC)の題材に用いるのは2018年10月に続いて二度目のこと。しかし、今回の企画では、マグヌスコップ以外の実験や説明の部分は全て変えた。「以前の企画のやり方では、参加者が何を得られるか(アウトカム)が不明瞭でした。マグヌスコップのしくみを教えることに固執しすぎて、その大前提となるはずの流体力学について考えられていなかったんです」と企画担当者の高橋は振り返る。
 全体の内容を決める前に改めて構成を練り直し、「モノは流体から力を受ける」ことを伝えるSCに重点を置こうという意識をメンバー間で共有した。


 次に考えたのは、マグヌスコップが不思議な動きをする原理をどうやって伝えるか。子どもたちには全く馴染みのない流体力学言葉や図だけで伝えるのには限界があった。そこで、別の実験をいくつか行ってその結果から原理を導くようなSCを作り上げた。「小学校では習わない知識があって分かりづらいので、少しでも記憶に残るように目の前で実験を行って印象づける必要がありました」。実験を見ることに集中できるように、書き込み式のワークシートも今回は使わなかった。そのかわり子どもたちのお土産として、簡単にマグヌスコップの作り方をまとめたペーパーを作り、その日体験したことを家に持ち帰れるようにした。

f:id:tuat_musset:20200513220635p:plain

図2 本企画で配布したお土産ペーパー。わかりやすい図解入りで、家でも簡単に飛ばし方がわかる。

 企画当日、子どもたちへのフォローも欠かさなかった。いくら面白いおもちゃでも、きれいに作って飛ばせないのでは意味がない。企画班のメンバー数人がアシスタントとして、マグヌスコップの作り方・飛ばし方をつきっきりで教えてくれていた。画一的な対応ではなく個別の状況に応じたフォローを心がけて、置いてけぼりにされる子がいないようにした。その甲斐もあり、子どもたちはコップを飛ばす角度や強さを変えつつ、何度も何度も面白がってトライしてくれた。

 これだけ多くの子どもたちが喜んでくれた理由は、「マグヌスコップが単純に面白い題材だったから」だと高橋は語る。「子どもたちだけではなく、大人たちにも興味を持たせることができました。SCのメインとなるコンテンツは、科学的に面白く、なおかつ目を引くキャッチーさが必要なのだと思います」。飛行機の翼や、流れにできる渦など、流体力学をテーマにした面白いSCはまだまだできそうだと高橋は言う。流体の面白さを伝える試みは、まだこの先も続いていく。

f:id:tuat_musset:20200513220647p:plain

図3 マグヌスコップの飛ばし方をmussetメンバーから教わる子どもたち。最初は上手く飛ばせなかった子も、徐々にコツを掴むと笑顔を見せるように。