東京農工大学科学博物館支援学生団体 musset 『みゅぜっとにゅ〜す』

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五感でウズラの面白さを伝える


 今回は、農学部から初めて書かせて頂きます。2019年12月サイエンスマルシェで行った企画「意外と知らない!?ウズラの世界」について紹介していきます。

 突然ですが、今回の企画が実現したのには、以下のような経緯があります。mussetには科学博物館(小金井キャンパス)を中心に活動されている工学部メンバーと、博物館分館(府中キャンパス)を中心に活動している農学部メンバーがいます。ただ活動場所や規模、活動内容の違いなどもあり、今までコラボ企画などはありませんでした。工学部へ行く度に、「一緒に企画をできたらいいね」という話をしつつ、イベントのお手伝いをするくらいでした。農学部はパネル制作をメインに活動してきたため、企画参加には少なからず抵抗感があり、最初の一歩を踏み出せずにいました。そんな中、工学部の丸山さんからサイエンスマルシェへのお誘いがあり、農学部メンバーで話し合ったところ、「人数が増えた今なら、できるかもしれない」ということで、参加させて頂くことになりました。

今回は「意外と知らない!?ウズラの世界」ということで、以下の3つの目標を立てました。
・ウズラに興味をもってもらうこと
・ウズラがどんな鳥であるか分かってもらうこと
・ウズラの卵の模様の仕組みを分かってもらうこと

そのため、大まかに次のような流れで進めていくことにしました。
1.ウズラの基礎知識を確認するクイズ(全体)
2.ウズラの暮らしの豆知識の紹介(全体)
3.親鳥を触りながらの観察(各テーブル)
4.卵の模様の仕組みの解説(各テーブル)
5.まとめ(全体)

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写真1 最初の全体で実施したクイズの際の様子

 一方的な説明にならないように、クイズやテーブルごとの観察、解説を入れつつ、集中力が続くように30分の企画を計画しました。テーブルごとでは、少人数で模様の仕組みについてイメージしやすいようにクイズを出したり、ワークシートを使って触って感じたことを確認したりと、子供達が考えたり感じたりできるような仕掛けを作りました。


【テーマ設定に関して】
 今回初めての企画を立てていくにあたり、一番大切にしたことは「実験以外の方法で、いかに農学を身近に感じてもらうか」です。そのためには、どんなテーマを設定するかがとても重要でした。

 サイエンスマルシェの企画は、見てわかりやすい変化のある実験がコミュニケーションのきっかけとなることが多いです。一方で、農学分野の実験ではあまり大きな変化が起きず、長期的におきる変化も様々な影響を受けます。
 例えば、一昨年までのテーマ「ブルーベリー」を例に挙げてみます。ブルーベリーは春から初夏に花を咲かせ、夏~秋に実をつけます。12月に苗木を見ても、素人にはブルーベリーだとは分かりません。もちろん、ブルーベリーも呼吸や光合成をして生きていますが、じっと見ても変化の割合が小さく、変化しているようには見えません。そのため、パネル制作のように一方向的な説明によるアウトプットに陥りがちでした。

 農学をテーマとしたとき、短期的には変化がなくわかりづらい実験をせずに、何を伝えることができるか、話し合いをしていく中で、企画のテーマとして挙がったのが、ウズラでした。ウズラを選んだのには、いくつか理由があります。

 第一に、季節変化の影響を受けにくいため、題材として扱いやすいこと。季節変化の大きい題材の場合、その年の気候によって、当日に見せられるはずだったもの(花、果実、夏毛、冬毛など)が見せられないことがあり、企画に必要な材料が揃わない場合もあります。
 第二に、誰でも知っている動物でありながら、生態があまり知られていないこと。「ウズラのタマゴ」としては名を馳せていますが、その親鳥や卵を産む過程はあまり知られていません。
 そして最後に、農工大でウズラを飼育している研究室があること。研究に使われているウズラについて、大学生だからこそ伝えることができる視点があるのではないかと考え、ウズラをテーマにしました。

【準備段階で気をつけた点】
 実験をしない代わりに、ウズラやそのタマゴに実際に触れたり、見たりすることで、双方向型のコミュニケーションを図れるよう、企画の流れを作りました。そのために、2つのしかけを作りました。

(1) 観察の補助としてのワークシート
企画の中で本物のウズラや卵に触る上で、注意すべき点がありました。実際に生きものを前にすると、触ることが楽しくなってしまい、触ったことだけが印象に残ってしまいがちです。触ることは貴重な経験ですが、「ウズラ触れて楽しかった」だけではもったいないため、面白さや新たな発見を持ち返ってもらうためのワークシートを作成しました。

うずらずかん」という名前のワークシートは、ウズラの親鳥の観察で分かったことと、卵の模様について、参加者が観察したことを書き込めるようになっています。親鳥の観察では、ただ触るだけにならないように、ウズラやその卵を見たり触れたりしてどう感じたかを書けるようにしました。そうすることで、学生とお子さんの間だけでなく、お子さんと保護者の方の間でも、ワークシートを通じてコミュニケーションが生まれるようにしました。

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写真2 当日配布したワークシート

(2)普段目にすることができないタマゴ
 ウズラの卵は、同じ親から生まれているものは模様が似ています。ただし、同じ鳥は多くても1日に1回しか卵を産まないため、スーパーで売られているウズラのタマゴに同じ親鳥の卵が入っていることはありません。これらのことを活かして、同じ親から産まれた卵を複数用意しました。これは大学の研究室のご協力があって、頂くことができました。似た模様のウズラの卵と全く似ていない模様の卵を比較してもらうことで、どうして違うのかを考えてもらう。そうすることで、ウズラの模様ができる仕組みについて、興味を持ってもらえるようにしました。

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写真3 ウズラの卵/同じ親鳥から生まれたものごとに分けられています

【当日の様子】
 このような準備を経て、迎えた当日は多くの方にお越しいただきました。「普段食べているウズラがこんな鳥だとは知らなかった」や「ウズラの模様の仕組みが分かった」などの声を聞くことができ、良かったです。ウズラが飛ぶなどのアクシデントもありましたが、「ウズラって飛ぶんだね!」「飛んでるウズラなんて見たことないよ」という保護者の方からの驚きの声も頂きました。

 ただ、テーブルごとに行う観察の部分では、改善ができる部分もありました。少人数ごとにテーブルに分けてはいるものの、ウズラに触る順番が回ってくる前の参加者が飽きてしまう場面がありました。今後順番を待ってもらう必要がある企画の際は、前半と後半で順番を入れ替えたり、より少人数のグループにしたりするなどして、絶えず興味を持ち続けられるような工夫をしようと思います。また、ワークシートに、観察したことを書くためだけでなく、観察する前にも興味を持てるような内容を加えることも、考えていきたいです。

 今回の企画は、ウズラの専門的なことについて知ってもらう企画というよりも、ウズラに興味をもってもらうための初級的な位置づけの企画でした。来て下さった参加者の方の多くは、ウズラを見たり触ったりするのが初めてでしたが、ウズラを実際に飼われている方も数人いらっしゃいました。そういった方にとっては、もの足りない企画になっていたのではないかと感じました。様々な方にお越し頂く中で、相手の興味度合いに合わせて、内容の専門性を変えられるような企画作りについても話し合っていきたいです。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。今年度のサイエンスマルシェの予定は未定ではありますが、今後も農学の視点からも科学の楽しさ、面白さを伝えていけたらと思います。