東京農工大学科学博物館支援学生団体 musset 『みゅぜっとにゅ〜す』

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空気の力を自分の手で体験する

10月サイエンスマルシェを担当した岡野です。10月サイマルは「見えないけどすごい!空気の力」と題して大気圧をテーマに実施しました。

 初めに、当日の活動内容を軽く紹介します。行った実験は以下の3つです。
1.持ち上がらないプラ板
 持ち手を付けたプラ板を机に密着させると上に引っぱっても持ち上がらなくなる。
2.冷やすと潰れる缶
 空き缶に熱湯を入れ水蒸気で満たす。それを冷やすと圧力差によって潰れる。
3.プラ板で持ち上がるコップ
 1で用いたプラ板を今度はプラコップに押し付ける。それを持ち上げるとコップもともに持ち上がる。

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図1 実験3の様子。たくさんのビー玉を入れてもコップは持ち上がる。

そして、1と2の間に圧力の説明、各実験の後にはそれぞれの原理説明をしました。(しかしこの説明部には反省点が多くあり……。詳しくは後述します。)最後に身の回りでの活用として吸盤とストローを紹介し、まとめという流れでした。

 次に、企画の準備段階から当日までを振り返りたいと思います。

 

テーマ選び
 大気圧をテーマとした最初のきっかけはテレビ番組で大気圧の実験を見たことです。それを見て、私自身が実際にやってみたい!と思い、きっと小学生も楽しんでくれるのではないかということでテーマが大気圧に決まりました。


企画準備
 テーマが決まる前から参加者自らに手を動かして体験してもらいたいと考えていました。そのため、テーマが大気圧に決まったのちまずは実施する実験を決めることから始め、そこから全体の流れを作っていきました。大気圧に関する実験例は多く見つかったのですが、その中から
・30分の企画内で複数個の実験ができる時間
・小学校低学年の参加者でも一人でできる難易度
・全方位から大気圧がかかっていることがわかる
などを基準に先に述べた3つの実験をすることになりました。熱湯を使う必要があったため実験2のみ演示形式で行いました。

 その後、サイマルの肝であるなぜそうなるのか、という原理説明を考えていったのですが、この部分が最も難しく、そして企画終了後一番の反省点となりました。
大気圧は言い換えると大気の圧力です。そして圧力とは単位面積当たりの力なので「圧力=力」としてしまうことは正確ではありません。しかし、小学生向けの説明では「大気圧=空気が押す力」としていることがほとんどでした。それもそのはず、圧力は中学で初めて出てくる範囲です。そんな中できる限り正確に伝えたいと考え、この圧力の考え方の解説に多くのスライドと時間を割くことになりました。

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図2 大気圧の説明スライドの一部。

 スライド自体は企画者で相談しながら作成し良いものができたと思います。しかし、対象の小学生には割り算すらまだ学んでいない参加者も多くたとえうまく説明したとしても理解する事はなかなか難しいでしょう。実験の原理も同様で、正しい説明のために水の状態変化や密度までもを説明することになりました。自分の手で体験してもらうことをメインにして出発したのに、最終的に長い説明を聞かせることになってしまったのです。聞くだけにならないための対処として途中で「どっちの圧力が高いかな?」と質問し手を挙げてもらうようにするなど、最後まで改定を続けましたが、うまく折り合いをつけられないままサイマル当日を迎えました。

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図3 圧力の差を考えてもらったがなかなか難しかったようだ。

サイエンスマルシェ当日
 そして迎えた本番の日。
 まず反省点は先述した通りです。やはり説明部は難解だったようで当日中の反応やアンケートから大部分の子どもがよくわからなかったことがうかがえました。途中に挟んだ質問がわからない子も多く力不足に申し訳なく思います。
 ここまでネガティブな話が多くなってしまいましたが、もちろん良かった点もあります。一番は、予想していた以上にそれぞれの実験が盛り上がったことです。説明部ではつまらなさそうな顔をさせてしまったのですが、実験は笑顔で楽しんでくれたようでとてもほっとしました。

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図4 実験2の様子。大きな音を出して潰れるのでインパクトがあった。

 また、最後に紹介した吸盤やストローの例も詳しい原理は難しかったのですが、参加者の方々が身の回りでも大気圧を利用しているということに興味を持ってもらえたようでよかったです。ストローは飲み物を直接吸っているのではなく大気圧に押してもらうことで飲むことができているという説明は保護者の方も驚かれたようでした。


 最後に全体を振り返ってみて、今回の10月サイマルは大成功とは決して言えない結果でした。しかし、どの子も実験を積極的に行ってくれたので、自分の手で大気圧を体験してもらうという目的は達成できたかなと思います。今回の反省点である、正しい説明と小学生の理解できる範囲とのバランスは今後のサイマルでも最重要課題の一つとして考えていきたいです。
 私自身、小さいころによく博物館や実験教室などに連れて行ってもらっていて、それは今でも楽しい思い出として残っています。そして、それは理系に進むこととなった理由の一つにもなっています。今、大学生となり、mussetの一員としてサイエンスコミュニケーション活動をしていますが、あの時の私が感じたようなワクワクを少しでも与えられるような企画をこれからも行っていけたらなと思います。