東京農工大学科学博物館支援学生団体 musset 『みゅぜっとにゅ〜す』

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人工イクラ作りから架橋反応を学ぶ

 2019年度8月サイエンスマルシェ「プチっと人工イクラ~架橋反応プチ実験~」を担当した原・藤田です。
 この企画は、人工イクラとして有名なアルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンによる架橋反応実験を通して、架橋反応の原理、特性、応用例について学ぶことを目的としたものです。
 ①架橋反応の実験を行い②原理について学習し、③得た知識を基に応用的な実験を行う、という流れで行いました
 またこの企画はブラッシュアップした後11月16,17日に科学技術振興機構主催のサイエンスアゴラにも出展しました。2回に渡って得た気付きなども書いていきたいと思います。


テーマ設定について 
 詳しくは後述しますが、架橋反応においてその架橋の数を増減することで物質の硬さが変えられるという性質が面白いということ、その性質が日常生活において重要な役割を担っている事を学んでもらうことを基本的な目標としました。
 さらに、ひいては日常の中で役立っている架橋反応以外の科学反応にも興味を持ってもらうことを発展的な目標としました。

実験の設計
 今回は架橋反応の中でもアルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムの架橋反応を扱いました。アルギン酸ナトリウムを塩化カルシウムと反応させると、カルシウムイオン(2価の陽イオン)がアルギン酸同士を橋渡しします。以下は実際に用いた説明用の動画です。
 動画内の赤いキャラクターをアルギン酸、白いキャラクターをカルシウムイオンに見立てています。

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図1.架橋反応の起こる仕組み。アルギン酸がカルシウムイオンにより架橋される。

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図2.塩化カルシウム溶液にアルギン酸ナトリウムの溶液滴を垂らすと、界面で架橋反応が進行する。

 アルギン酸の鎖がカルシウムイオンで所々架橋されると、液体だったアルギン酸
が半固体のゲル状になります。実際の実験では、塩化カルシウム溶液の中に赤色に染色したアルギン酸ナトリウム溶液をスポイトで垂らしました。
 

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図3.アルギン酸ナトリウム溶液(赤色)を滴下している様子。ビーカーの中にイクラ様の物体が浮かんでいる。


図2.で示したように、アルギン酸ナトリウム溶液が界面で架橋反応を起こした結果、液体が柔らかい膜で包まれ、指で押すとプチっと弾けるイクラ様の物体が出来ます。

 私達はここで原理の理解を確認する為の応用の実験を用意しました。赤い塩化カルシウム溶液の中に無色のアルギン酸ナトリウム溶液を加えたらどのようなイクラが出来るか問いかけ、実験をします。
 

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図4.奥が色付きのイクラで、手前が無色のイクラ

 上の画像のように、アルギン酸ナトリウム溶液が無色なので、膜は微かに赤いが、全体としてはほぼ無色のイクラが出来ます。原理を学習した後に透明なイクラの実験をすることで学んだ知識が目の前で実践に代わるような実験に出来たと感じています。

準備した道具
竹串の模型
 分子の自由度と状態変化についてお子さんに1から説明するのは難しいので、橋を糸に例え、物質を竹串に例えて橋が多くなると物質が硬くなるイメージを伝えました。

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図5.実際に用いたもの。2本の竹串を繋ぐ糸が多いほど竹串を自由に動かすのは難しくなる。

ゴムセット
 架橋反応で硬さを変えられる種類のゴムから出来ている市販の製品を集め、子供達に硬さを触り比べてもらいました。例えば輪ゴムを取り出して輪ゴムが硬すぎるとどう困るか、などを話し合いながら架橋反応で硬さを変えられる重要性について話しました。

図6.台所用手袋、風船、消しゴムなどの様々なゴム製品を触り比べた。

プレゼンテーション
 図1,2で示したように架橋反応の内容が苦労なく理解出来るようにPowerPointを用いて説明しました。アルギン酸→「アルちゃん」カルシウムイオン→「カルくん」として、架橋反応がどのように起こっているかを追いました。

お持ち帰りプリント
 当日の内容を家に持ち帰れるようにプリントも用意しました。架橋反応の原理に絞ってスライドを元に作成しました。

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図6.8月持ち帰りプリント。イクラ作りでの架橋反応の仕組みがまとまっています。

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図7.11月持ち帰りプリント。架橋反応自体の性質を説明するように変更されています。

サイエンスコミュニケーション
 サイエンスマルシェではTA1人に対し子供が3-4人で行いました。11月のサイエンスアゴラではTA1人に対し1家族又はグループで行いました。
 後者の形式では、お子さんの理解のペースを見て実験を進められ、掘り下げた話も出来たのが良かった点でした。この形式は一度に沢山のお子さんがいらっしゃるサイエンスマルシェでは難しいですが、どうにかこの経験を生かしたいと思っています。


 最後に、8月では、人工イクラができる原理を説明する事に集中しすぎ、人工イクラで活用されている「架橋反応」の凄さ・面白さを伝えきれなかったという反省がありました。そこで11月では「架橋反応の何が嬉しいのか」をより伝えられるよう、ゴムセットや竹串の模型などを導入してサイエンスコミュニケーションの構成を組み直しました。
 架橋反応の面白さを伝える手段であった実験が、準備を進めるいつの間にか企画の主軸になってしまったのです。サイエンスコミュニケーションにおいて興味を引き付ける面白い実験は便利な手段ですが、その手段と目的が入れ替わらないよう注意しなければならないという大きな学びを得ました。