東京農工大学科学博物館支援学生団体 musset 『みゅぜっとにゅ〜す』

東京農工大学科学博物館学生支援団体mussetの公式ブログです。

身の回りの現象から光の面白さを伝える

 こんにちは!mussetの丸山です。今回は、2019年6月に行った「光が当たると温度が上がる?輻射のふしぎ」について振り返っていきたいと思います。

 この企画は、タイトルにあるように輻射をテーマとし、

・光が当たると温度が上がるのは、光がエネルギーを運ぶからだということ

・物体による温度の上昇具合の差異は、反射・吸収される光の波長が異なるからだということ

以上の二点を理解してもらえるように計画をしました。

話の構成としては大まかに、

1,エネルギーとは何かという説明

2,紙に光を当てた時、当てない時の温度上昇の違い(実験)

3,光と色の関係の説明

4,色の異なる紙に光を当てた時の温度上昇の違い(実験)

5,まとめ

としました。

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図1,放射温度計で温度を測定している様子

 また、ワークシートを用いることで、その場限りではなく家に帰って親御さんと振り返ることができるような仕組みを目指しました。

 当日は実験を2つ行い、さらに放射温度計というおそらく子供たちにとっては見ることも初めてであろう器具を用いたこともあり集中して実験に取り組めていたと思います。

 また、集中力が途切れてしまうと考えていましたが、用意したワークシートへの記入も熱心に行っていたのが印象的でした。親御さんや時にはmussetのメンバーにも相談しながら記入していたのは企画の内容に興味を持ってもらえたからだと考えています。

 ここからは企画を実行するにあたってどんな話し合いがあったかを反省を含めて振り返っていきたいと思います。

 

 

輻射というテーマ設定に関して

 私が物理系学科と言うこともあり、光は興味のある分野でした。その中で、白い車は熱くなりにくい、黒い車は熱くなりやすいという日常で感じる不思議を理系大学生なりに小学生と解明してみよう!と考えたのが最初のきっかけでした。

 今回のサイエンスマルシェを通じての短期目標は、上でも述べたように

・光がエネルギーを運搬することの理解

・色によって温度上昇の様子が異なるという理由部分の理解

におきました。また、長期目標、光に興味を持ってもらうことをおきました。短期目標はワークシートへの取り組みを見るにおおよそ達成できていたと考えています。

  

 

準備段階に関して

 科学に対してほとんど知識のない小学生対象のサイエンスマルシェのなかで、光の話、及びエネルギーの話をするのは非常に難しいと言うのは最初から問題となっていました。具体的には以下の4項目で、

1,輻射の話をするにはエネルギーの様々な形態、そしてその移り変わりを理解してもらう必要がある

2,温度が上がる際にはエネルギーが仕事をしていること

3, 色が見える理由を理解してもらう必要がある

4,これらを図や日常生活に落とし込んで理解してもらう必要がある

 どれも非常に解決の難しい問題点でした。これらは最終的にはスライドを用いることで基本的には図示して解決しました。以下に1,に関するスライドを1枚例示しておきます(下図2)

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図2,実際に用いたスライド。エネルギーの形態に関する内容です。



 

使用した主な道具

・光を出すための白熱球(全波長が含まれている白色)

・温度比較のための画用紙(白、黒)

・放射温度計

・ワークシート(下図3)

・スライド

 

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図3,ワークシート。測定した結果を自分で記入しました。

 

サイエンスコミュニケーションの手法に関して

 実施形式は学校の授業に近いものでした。前方でスライドの提示、実験パートでは各テーブルに実験助手(以下TA)が1,2名ついて実験進行をするという形で行いました。TAと子供のコミュニケーションは各テーブルで行われます。

 子供たちの疑問や何気ない発言を聞いて話を膨らませていくのは事前にたくさんの知識を得ていないと難しく、また、今回は放射温度計を用いたため、子供たちも興味津々でしたが、レーザーが出るため人に向けてはいけないというような注意事項も押さえておく必要があります。これらの手法部分についてはあまり練る余裕もなく進めてきてしまったため、次回実施時にはもっと練りたいと感じた部分です。

 

 

 以上の準備を経て迎えたサイエンスマルシェ当日では、企画が終わると毎回、楽しかった!面白かった!という声を聞くことができ非常に嬉しかったです。また、わかった!という声に、試しに質問してみるとちゃんと答えが返ってくる事も多くちゃんと話を聞き理解してくれていたということも分かりました。

 ワークシート(に関して)は家に帰った後も使えるという考えで用意した経緯があったのですが、文字の書けないお子さんも受けられるような工夫が必要だと感じました。例えば選択形式などが思い浮かびます。できる限り多くのお客さんに対応できる方式を模索していきたいと考えました。

 また、今回はお客さんが少なかったため親御さんにお子さんの隣で一緒に実験をしていただくことが多数ありました。これにより人見知りである子も親御さんを通してTAさんと会話ができ、予想していなかった良い効果が生まれたと考えます。この親御さんを巻き込むという視点は、新たなサイエンスコミュニケーションの形式のヒントになりそうだなと感じました。

 私が光について企画を持ったのは2回目です。しかし、まだ光の魅力、面白さは伝え切れていないと感じています。様々な魅力のある光学分野に興味を持ってもらうにはどうしたらいいか、また単に面白い現象、派手な現象の見た目ではなくそれが起こる理由、原理に魅力を感じてもらうにはどうしたらいいかを考えながら企画や実験を考えています。

 

 今年度は新型コロナウイルスの影響でサイエンスマルシェの実施ができるかどうかわかりませんが、引き続き科学の魅力を伝えていきたいと思います。

 

紙コップのおもちゃで「流体」を伝える

2019年度5月サイエンスマルシェは「空飛ぶコップを作ろう」を実施した。空飛ぶコップとは、この日のメインコンテンツとして用意した、2つの紙コップを底で合わせて繋げるだけで簡単に作れるおもちゃ「マグヌスコップ」のことだ。
 輪ゴムを数個繋げて作ったゴム紐をコップに何度か巻きつけて手を離すと、コップは回転しながら飛んでいく。浮かび上がってから落下したり、一回転したり……コップの不思議な動きは、「マグヌス効果」という物理現象によるもので、今回は流体力学(※)に親しむための題材として取り上げた。
流体力学:水、油、空気など「流れるもの」=流体の物理現象を研究する学問。

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図1 マグヌスコップの飛ばし方。この状態で紙コップを持つ方の手だけを離すと、コップは回転しながら前方に飛んでいく。

 実は、マグヌスコップをサイエンスコミュニケーション(以下、SC)の題材に用いるのは2018年10月に続いて二度目のこと。しかし、今回の企画では、マグヌスコップ以外の実験や説明の部分は全て変えた。「以前の企画のやり方では、参加者が何を得られるか(アウトカム)が不明瞭でした。マグヌスコップのしくみを教えることに固執しすぎて、その大前提となるはずの流体力学について考えられていなかったんです」と企画担当者の高橋は振り返る。
 全体の内容を決める前に改めて構成を練り直し、「モノは流体から力を受ける」ことを伝えるSCに重点を置こうという意識をメンバー間で共有した。


 次に考えたのは、マグヌスコップが不思議な動きをする原理をどうやって伝えるか。子どもたちには全く馴染みのない流体力学言葉や図だけで伝えるのには限界があった。そこで、別の実験をいくつか行ってその結果から原理を導くようなSCを作り上げた。「小学校では習わない知識があって分かりづらいので、少しでも記憶に残るように目の前で実験を行って印象づける必要がありました」。実験を見ることに集中できるように、書き込み式のワークシートも今回は使わなかった。そのかわり子どもたちのお土産として、簡単にマグヌスコップの作り方をまとめたペーパーを作り、その日体験したことを家に持ち帰れるようにした。

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図2 本企画で配布したお土産ペーパー。わかりやすい図解入りで、家でも簡単に飛ばし方がわかる。

 企画当日、子どもたちへのフォローも欠かさなかった。いくら面白いおもちゃでも、きれいに作って飛ばせないのでは意味がない。企画班のメンバー数人がアシスタントとして、マグヌスコップの作り方・飛ばし方をつきっきりで教えてくれていた。画一的な対応ではなく個別の状況に応じたフォローを心がけて、置いてけぼりにされる子がいないようにした。その甲斐もあり、子どもたちはコップを飛ばす角度や強さを変えつつ、何度も何度も面白がってトライしてくれた。

 これだけ多くの子どもたちが喜んでくれた理由は、「マグヌスコップが単純に面白い題材だったから」だと高橋は語る。「子どもたちだけではなく、大人たちにも興味を持たせることができました。SCのメインとなるコンテンツは、科学的に面白く、なおかつ目を引くキャッチーさが必要なのだと思います」。飛行機の翼や、流れにできる渦など、流体力学をテーマにした面白いSCはまだまだできそうだと高橋は言う。流体の面白さを伝える試みは、まだこの先も続いていく。

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図3 マグヌスコップの飛ばし方をmussetメンバーから教わる子どもたち。最初は上手く飛ばせなかった子も、徐々にコツを掴むと笑顔を見せるように。

 

2019年度サイエンスマルシェのコラム連載が始まります


現在の東京農工大学学生支援団体mussetについて

 東京農工大学科学博物館学生支援団体(Museum Support Student Team, musset)です。当団体は不定期で小学生を対象とした実験教室「サイエンスマルシェ」を行っています。
 主に東京農工大学の学部生が自分の専門や興味を持ったテーマについて科学実験教室を行うので、専門性の高さが特色となっています。


 今後これらの実験教室のバックグラウンドストーリーについてブログ連載を行う予定ですので、序章として2019年度サイエンスマルシェについてご紹介させていただきます。


2019年度サイエンスマルシェ概要

 2019年度は5月、6月、8月、10月、11月、12月の計6回サイエンスマルシェを開催しました。


5月

テーマ:流体
 マグヌス効果を題材とし、流体の基本的な考え方を学ぶ。

6月

テーマ:光学
 輻射を題材とし、色と温度の関係性について学ぶ。

8月

テーマ:酸化還元
 信号反応を題材とし、酸化還元の考え方を学ぶ。
テーマ:化学発光
 ルミノール反応を題材とし、化学発光の原理を学ぶ。
テーマ:架橋反応
 架橋反応を題材とし、架橋反応の原理と応用を学ぶ。

10月

テーマ:大気圧
 大気圧を題材とし、大気圧の基本的な考え方を学ぶ。

11月

テーマ:化学発光
 8月と同一の内容。

12月

テーマ:ウズラ
 ウズラを題材とし、ウズラの観察を行い生態について学ぶ。
テーマ:錯視、測定
 錯覚を題材とし、錯覚の起こる原理、数値で表す重要性を学ぶ。
テーマ:電磁気学
 電磁石を題材とし、電磁石の原理と性質について学ぶ。

5月から順に、企画の背景や準備の様子、企画に込めた思いなどを連載する予定です。

 

2020年度のサイエンスマルシェについて

 また、2020年度上半期に予定されていたサイエンスマルシェは新型コロナウイルスの影響で開催を一時取りやめておりますが、状況が落ち着いた後開催する予定です。Twitter等で(https://twitter.com/musset_tuat)告知する予定となっております。