東京農工大学科学博物館支援学生団体 musset 『みゅぜっとにゅ〜す』

東京農工大学科学博物館学生支援団体mussetの公式ブログです。

五感でウズラの面白さを伝える


 今回は、農学部から初めて書かせて頂きます。2019年12月サイエンスマルシェで行った企画「意外と知らない!?ウズラの世界」について紹介していきます。

 突然ですが、今回の企画が実現したのには、以下のような経緯があります。mussetには科学博物館(小金井キャンパス)を中心に活動されている工学部メンバーと、博物館分館(府中キャンパス)を中心に活動している農学部メンバーがいます。ただ活動場所や規模、活動内容の違いなどもあり、今までコラボ企画などはありませんでした。工学部へ行く度に、「一緒に企画をできたらいいね」という話をしつつ、イベントのお手伝いをするくらいでした。農学部はパネル制作をメインに活動してきたため、企画参加には少なからず抵抗感があり、最初の一歩を踏み出せずにいました。そんな中、工学部の丸山さんからサイエンスマルシェへのお誘いがあり、農学部メンバーで話し合ったところ、「人数が増えた今なら、できるかもしれない」ということで、参加させて頂くことになりました。

今回は「意外と知らない!?ウズラの世界」ということで、以下の3つの目標を立てました。
・ウズラに興味をもってもらうこと
・ウズラがどんな鳥であるか分かってもらうこと
・ウズラの卵の模様の仕組みを分かってもらうこと

そのため、大まかに次のような流れで進めていくことにしました。
1.ウズラの基礎知識を確認するクイズ(全体)
2.ウズラの暮らしの豆知識の紹介(全体)
3.親鳥を触りながらの観察(各テーブル)
4.卵の模様の仕組みの解説(各テーブル)
5.まとめ(全体)

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写真1 最初の全体で実施したクイズの際の様子

 一方的な説明にならないように、クイズやテーブルごとの観察、解説を入れつつ、集中力が続くように30分の企画を計画しました。テーブルごとでは、少人数で模様の仕組みについてイメージしやすいようにクイズを出したり、ワークシートを使って触って感じたことを確認したりと、子供達が考えたり感じたりできるような仕掛けを作りました。


【テーマ設定に関して】
 今回初めての企画を立てていくにあたり、一番大切にしたことは「実験以外の方法で、いかに農学を身近に感じてもらうか」です。そのためには、どんなテーマを設定するかがとても重要でした。

 サイエンスマルシェの企画は、見てわかりやすい変化のある実験がコミュニケーションのきっかけとなることが多いです。一方で、農学分野の実験ではあまり大きな変化が起きず、長期的におきる変化も様々な影響を受けます。
 例えば、一昨年までのテーマ「ブルーベリー」を例に挙げてみます。ブルーベリーは春から初夏に花を咲かせ、夏~秋に実をつけます。12月に苗木を見ても、素人にはブルーベリーだとは分かりません。もちろん、ブルーベリーも呼吸や光合成をして生きていますが、じっと見ても変化の割合が小さく、変化しているようには見えません。そのため、パネル制作のように一方向的な説明によるアウトプットに陥りがちでした。

 農学をテーマとしたとき、短期的には変化がなくわかりづらい実験をせずに、何を伝えることができるか、話し合いをしていく中で、企画のテーマとして挙がったのが、ウズラでした。ウズラを選んだのには、いくつか理由があります。

 第一に、季節変化の影響を受けにくいため、題材として扱いやすいこと。季節変化の大きい題材の場合、その年の気候によって、当日に見せられるはずだったもの(花、果実、夏毛、冬毛など)が見せられないことがあり、企画に必要な材料が揃わない場合もあります。
 第二に、誰でも知っている動物でありながら、生態があまり知られていないこと。「ウズラのタマゴ」としては名を馳せていますが、その親鳥や卵を産む過程はあまり知られていません。
 そして最後に、農工大でウズラを飼育している研究室があること。研究に使われているウズラについて、大学生だからこそ伝えることができる視点があるのではないかと考え、ウズラをテーマにしました。

【準備段階で気をつけた点】
 実験をしない代わりに、ウズラやそのタマゴに実際に触れたり、見たりすることで、双方向型のコミュニケーションを図れるよう、企画の流れを作りました。そのために、2つのしかけを作りました。

(1) 観察の補助としてのワークシート
企画の中で本物のウズラや卵に触る上で、注意すべき点がありました。実際に生きものを前にすると、触ることが楽しくなってしまい、触ったことだけが印象に残ってしまいがちです。触ることは貴重な経験ですが、「ウズラ触れて楽しかった」だけではもったいないため、面白さや新たな発見を持ち返ってもらうためのワークシートを作成しました。

うずらずかん」という名前のワークシートは、ウズラの親鳥の観察で分かったことと、卵の模様について、参加者が観察したことを書き込めるようになっています。親鳥の観察では、ただ触るだけにならないように、ウズラやその卵を見たり触れたりしてどう感じたかを書けるようにしました。そうすることで、学生とお子さんの間だけでなく、お子さんと保護者の方の間でも、ワークシートを通じてコミュニケーションが生まれるようにしました。

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写真2 当日配布したワークシート

(2)普段目にすることができないタマゴ
 ウズラの卵は、同じ親から生まれているものは模様が似ています。ただし、同じ鳥は多くても1日に1回しか卵を産まないため、スーパーで売られているウズラのタマゴに同じ親鳥の卵が入っていることはありません。これらのことを活かして、同じ親から産まれた卵を複数用意しました。これは大学の研究室のご協力があって、頂くことができました。似た模様のウズラの卵と全く似ていない模様の卵を比較してもらうことで、どうして違うのかを考えてもらう。そうすることで、ウズラの模様ができる仕組みについて、興味を持ってもらえるようにしました。

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写真3 ウズラの卵/同じ親鳥から生まれたものごとに分けられています

【当日の様子】
 このような準備を経て、迎えた当日は多くの方にお越しいただきました。「普段食べているウズラがこんな鳥だとは知らなかった」や「ウズラの模様の仕組みが分かった」などの声を聞くことができ、良かったです。ウズラが飛ぶなどのアクシデントもありましたが、「ウズラって飛ぶんだね!」「飛んでるウズラなんて見たことないよ」という保護者の方からの驚きの声も頂きました。

 ただ、テーブルごとに行う観察の部分では、改善ができる部分もありました。少人数ごとにテーブルに分けてはいるものの、ウズラに触る順番が回ってくる前の参加者が飽きてしまう場面がありました。今後順番を待ってもらう必要がある企画の際は、前半と後半で順番を入れ替えたり、より少人数のグループにしたりするなどして、絶えず興味を持ち続けられるような工夫をしようと思います。また、ワークシートに、観察したことを書くためだけでなく、観察する前にも興味を持てるような内容を加えることも、考えていきたいです。

 今回の企画は、ウズラの専門的なことについて知ってもらう企画というよりも、ウズラに興味をもってもらうための初級的な位置づけの企画でした。来て下さった参加者の方の多くは、ウズラを見たり触ったりするのが初めてでしたが、ウズラを実際に飼われている方も数人いらっしゃいました。そういった方にとっては、もの足りない企画になっていたのではないかと感じました。様々な方にお越し頂く中で、相手の興味度合いに合わせて、内容の専門性を変えられるような企画作りについても話し合っていきたいです。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。今年度のサイエンスマルシェの予定は未定ではありますが、今後も農学の視点からも科学の楽しさ、面白さを伝えていけたらと思います。

 

実験を通して電磁石のおもしろさを伝える

こんにちは!mussetの阿部です。今回は、2019年12月サイエンスマルシェにて行った「探れ!電気と磁石の秘密」について振り返っていきたいと思います。

 

今回の企画について
 この企画では、電磁石を主に扱い、スライドを用いた説明と実験を通して「電磁石の仕組みを理解すること」と「身の回りで活用されている電磁石を知ること」を目標にしました。
 電磁石は小学5年生で習う内容であるため、小学校低学年の子供たちに説明するにはどうしても内容が濃く、難しくなってしまいます。そこで実験を多く取り入れ、目に見えない電気、磁気といったものをなるべく可視化して理解してもらえるようにしました。

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図1 図2 各テーブルでそれぞれ実験を行う様子

 また、実験を多く取り入れたことで、大学生1人が子供全員に向かって話す形式ではなく、各テーブルでmussetメンバー2人が3,4人の子供たちに話をする形式で行うことができ、コミュニケーションの時間を多くとれました。これによって、子供たちが電磁石についてより理解を深めることができたと感じています。
 実験中はもちろんですが、スライドを使って説明をするときにも途中で子供たちに何度か問いかけをして答えてもらうことで、ただ説明を聞いているのではなく企画に参加しているということを感じてもらえるように工夫しました。

 さて、ここからは企画の準備等について振り返っていきたいと思います。

 

テーマ設定について
 私自身が初めて電磁石を学び、その仕組み、はたらき、そしてどんなところで使われているのかといったことを知った時にとてもおもしろいと感じ、なぜかわくわくしました。そういった感情をこの企画を通して子供たちに少しでも感じて欲しい、と思いこのテーマを選びました。これを達成するために、まずは電磁石の仕組みを理解してもらい、そのうえで身の回りの電磁石について知ってもらうことを短期目標に、電磁気分野に興味をもってもらうことを長期目標に設定しました。
 企画中の子供たちの反応や企画後のアンケートを見ると、電磁石の仕組みを理解してもらうという点は、今回説明した範囲では達成できたと考えています。しかし、身の回りの電磁石については、説明の時間が押してしまい、企画の最後に駆け足で説明したためあまり子供たちの記憶に残らなかったかもしれません。

準備について
 準備では、他のメンバーと一緒にどのような実験を行えば電気と磁気について理解してもらえるかについて話し合い、考えました。当初の考えでは、電流の周りにできる磁場を方位磁石を使って見せようと考えていたのですが、方位磁石がわかりやすく振れるほどの磁場を発生させる電流を流すことは難しいことがわかり、その部分はわかりやすい動画を見てもらい、実際の会場では下図3,4のようなイラストと実際の銅線を使用して電流の周りにできる磁場の説明を行いました。当初の考えとは違う方法になりましたが結果的によりわかりやすくできたのではないかと思います。また、最後に砂鉄やクリップ、方位磁石を使って実際に電磁石の性質を見てもらいました。

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図3 図4 イラストと銅線を使って説明している様子

(黒い矢印が磁場を、黄色い矢印が電流を表している)

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図5 図6 実際に電磁石の性質を説明している様子



使用した道具について
・スライド
・方位磁石
・砂鉄
・クリップ
・トレー(砂鉄を広げるため)
・白紙(トレーの下に敷くことで砂鉄の動きを見やすくするため)
・棒磁石
・乾電池
・銅線
・抵抗器(1Ω)

サイエンスコミュニケーションについて
 上でも述べましたが、実験を各テーブルごとで行ったため、mussetメンバー2人に対して小学生3、4人ほどの割合で対応することができました。そのため、しっかりと参加者全員とコミュニケーションをとることができ、実験を通して多くのコミュニケーションをとることができました。実験をしながら「この向きに電流が流れたら磁場はどういう向きにできるかな?」といった質問をして、しっかりと的を得た答えが返ってくると説明がきちんと伝わっていることがわかり嬉しかったです。

企画を終えて
 以上で述べたようにして企画を行いました。私は当時学部1年生で、それまで先輩の企画を手伝うことはあっても自分の企画をもつのは初めてで不安が大きかったのですが、たくさんの先輩方や同期に助けられなんとか企画を成功させることができました。実際に自分が考え作った内容、スライドで多くの小学生相手に話をすることは楽しかったですし、小学生に自分が伝えたいことがしっかり伝わって理解してもらえた時はとても嬉しかったです。
 今回、自分で説明用のスライドを作るにあたって、ひと通り自分でスライドを作成した後に先輩方からスライドのデザインについての指導をしていただきました。修正を重ねるうちに、自分が作ったスライドがとても見やすくわかりやすくなり、デザインの大切さを再認識しました。また企画をもつ際には、自分でもデザインを勉強してもっと分かりやすいスライドを作らなければいけないと思いました。
 今回の企画は大変なこともありましたがとても良い経験になりました。機会があればまた自分で企画を担当したいです。

 

 

数学から科学へ

 こんにちは。サイエンスマルシェについての連載も、そろそろ終盤です。昨年12月のサイエンスマルシェは豪華(?)3本立てでした。そのうち、ここでは「見てわかる!カタチのふしぎ」について触れさせていただきます。

この企画で扱ったトピック・実験は、大きく分けて次の二つでした。
遠近法とそれを用いたトリックアートの仕組み
ワークシートのシェパード錯視や回廊錯視の図に透明なシートを当て、錯視を実感する実験。目の仕組みや光の経路と絡めた話。
「計測」の重要性
壁に貼った図形の各辺を測って大きさを比べる実験。正確に伝えるためには、漠然とした大きさなどを「量」として表すことが重要という話。

 アンケート結果によると、参加してくださった皆さんにはどちらのトピックも予想以上に楽しんでいただけたようです。低学年の子にもかなり楽しんでもらえたのが見ていて伝わりました。

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図1.当日の①の実験風景

 さて、この企画の最終目標は、「計測」という「数学的」概念を通して科学への導入を図ろうというものに設定しました。数学の、そして科学の初歩とはモノを「量」で表すことであると思います。たとえば、薬品の量を計算するにも力の計算をするにも、量として、ひいては「数」として物事を表せなくては意味がありません。数学を自然科学に含む辞書もあるほど、「科学(自然科学)」と「数学」には深い関係があります。
 ですが、こういった企画ではどうしても「科学」単体の面白さが取り上げられがちです。その方が面白い実験がしやすく、とっつきやすいからかもしれませんが……いわゆる「科学」は門外漢に近い身としては、数学から科学へ繋がるような実験ができないか模索したかったのです。そういった経緯から、私は今回、他の企画と比べても異質な本企画を発案しました。

 実際に企画を進行する上でも、本企画と他の企画とにはかなりの違いがありました。中でも最大の違いは、予備実験がほぼ不要だったことです。人の視覚を利用した実験ばかりでしたので、特別な装置や材料などの手配もほとんど必要ありません。その分の時間を、ワークシートやパワーポイントなどの資料作成に存分に費やすことができました。当日に実験が失敗するリスクも低く、実験自体が単純だったためか時間配分もしやすかったように思います。
 一方、問題点としては、他の2企画に比べて集客力が弱めでした。この点では可愛いうずらとカッコいい電磁石には勝てなかったようです。恐らく、企画のキャラが薄かったか、分かりにくかったということでしょう。また、「小学校低学年にも分かりやすく楽しく」を目指した結果、高学年には簡単過ぎたかもしれません。たとえば、ただ単に「小学生向け」と言うよりは、「小学校低学年向け」などの細かい区分(勿論ただの目安であり、それ以外の方も歓迎します)を設けた方が、SCも含め難易度設定がしやすいような気もします。その辺りは今後の課題となるかもしれません。

 今回の企画は先にも述べた通り、mussetで新しい試みを、という思考から成り立ったものでもあります。その一つがこうして一定の成功を収めたということは、今後更なる新しい試みが生まれることに繋がるのでは、と期待するところです。私自身、この他にもいくつか考えておりますので、お目にかけられる日を楽しみにしております。
 以上が、12月サイエンスマルシェ「見てわかる!カタチのふしぎ」の回顧録となります。私見に溢れた堅苦しい文章ですが、少しでも参考になれば幸いです。最後に、私の性急な企画案の持ち掛けを二つ返事で受け入れ、手伝ってくれたmusset3年の中村さんに感謝を。
 ここまで読んでくださってありがとうございます。musset3年の前田でした。

 

空気の力を自分の手で体験する

10月サイエンスマルシェを担当した岡野です。10月サイマルは「見えないけどすごい!空気の力」と題して大気圧をテーマに実施しました。

 初めに、当日の活動内容を軽く紹介します。行った実験は以下の3つです。
1.持ち上がらないプラ板
 持ち手を付けたプラ板を机に密着させると上に引っぱっても持ち上がらなくなる。
2.冷やすと潰れる缶
 空き缶に熱湯を入れ水蒸気で満たす。それを冷やすと圧力差によって潰れる。
3.プラ板で持ち上がるコップ
 1で用いたプラ板を今度はプラコップに押し付ける。それを持ち上げるとコップもともに持ち上がる。

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図1 実験3の様子。たくさんのビー玉を入れてもコップは持ち上がる。

そして、1と2の間に圧力の説明、各実験の後にはそれぞれの原理説明をしました。(しかしこの説明部には反省点が多くあり……。詳しくは後述します。)最後に身の回りでの活用として吸盤とストローを紹介し、まとめという流れでした。

 次に、企画の準備段階から当日までを振り返りたいと思います。

 

テーマ選び
 大気圧をテーマとした最初のきっかけはテレビ番組で大気圧の実験を見たことです。それを見て、私自身が実際にやってみたい!と思い、きっと小学生も楽しんでくれるのではないかということでテーマが大気圧に決まりました。


企画準備
 テーマが決まる前から参加者自らに手を動かして体験してもらいたいと考えていました。そのため、テーマが大気圧に決まったのちまずは実施する実験を決めることから始め、そこから全体の流れを作っていきました。大気圧に関する実験例は多く見つかったのですが、その中から
・30分の企画内で複数個の実験ができる時間
・小学校低学年の参加者でも一人でできる難易度
・全方位から大気圧がかかっていることがわかる
などを基準に先に述べた3つの実験をすることになりました。熱湯を使う必要があったため実験2のみ演示形式で行いました。

 その後、サイマルの肝であるなぜそうなるのか、という原理説明を考えていったのですが、この部分が最も難しく、そして企画終了後一番の反省点となりました。
大気圧は言い換えると大気の圧力です。そして圧力とは単位面積当たりの力なので「圧力=力」としてしまうことは正確ではありません。しかし、小学生向けの説明では「大気圧=空気が押す力」としていることがほとんどでした。それもそのはず、圧力は中学で初めて出てくる範囲です。そんな中できる限り正確に伝えたいと考え、この圧力の考え方の解説に多くのスライドと時間を割くことになりました。

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図2 大気圧の説明スライドの一部。

 スライド自体は企画者で相談しながら作成し良いものができたと思います。しかし、対象の小学生には割り算すらまだ学んでいない参加者も多くたとえうまく説明したとしても理解する事はなかなか難しいでしょう。実験の原理も同様で、正しい説明のために水の状態変化や密度までもを説明することになりました。自分の手で体験してもらうことをメインにして出発したのに、最終的に長い説明を聞かせることになってしまったのです。聞くだけにならないための対処として途中で「どっちの圧力が高いかな?」と質問し手を挙げてもらうようにするなど、最後まで改定を続けましたが、うまく折り合いをつけられないままサイマル当日を迎えました。

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図3 圧力の差を考えてもらったがなかなか難しかったようだ。

サイエンスマルシェ当日
 そして迎えた本番の日。
 まず反省点は先述した通りです。やはり説明部は難解だったようで当日中の反応やアンケートから大部分の子どもがよくわからなかったことがうかがえました。途中に挟んだ質問がわからない子も多く力不足に申し訳なく思います。
 ここまでネガティブな話が多くなってしまいましたが、もちろん良かった点もあります。一番は、予想していた以上にそれぞれの実験が盛り上がったことです。説明部ではつまらなさそうな顔をさせてしまったのですが、実験は笑顔で楽しんでくれたようでとてもほっとしました。

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図4 実験2の様子。大きな音を出して潰れるのでインパクトがあった。

 また、最後に紹介した吸盤やストローの例も詳しい原理は難しかったのですが、参加者の方々が身の回りでも大気圧を利用しているということに興味を持ってもらえたようでよかったです。ストローは飲み物を直接吸っているのではなく大気圧に押してもらうことで飲むことができているという説明は保護者の方も驚かれたようでした。


 最後に全体を振り返ってみて、今回の10月サイマルは大成功とは決して言えない結果でした。しかし、どの子も実験を積極的に行ってくれたので、自分の手で大気圧を体験してもらうという目的は達成できたかなと思います。今回の反省点である、正しい説明と小学生の理解できる範囲とのバランスは今後のサイマルでも最重要課題の一つとして考えていきたいです。
 私自身、小さいころによく博物館や実験教室などに連れて行ってもらっていて、それは今でも楽しい思い出として残っています。そして、それは理系に進むこととなった理由の一つにもなっています。今、大学生となり、mussetの一員としてサイエンスコミュニケーション活動をしていますが、あの時の私が感じたようなワクワクを少しでも与えられるような企画をこれからも行っていけたらなと思います。

 

人工イクラ作りから架橋反応を学ぶ

 2019年度8月サイエンスマルシェ「プチっと人工イクラ~架橋反応プチ実験~」を担当した原・藤田です。
 この企画は、人工イクラとして有名なアルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンによる架橋反応実験を通して、架橋反応の原理、特性、応用例について学ぶことを目的としたものです。
 ①架橋反応の実験を行い②原理について学習し、③得た知識を基に応用的な実験を行う、という流れで行いました
 またこの企画はブラッシュアップした後11月16,17日に科学技術振興機構主催のサイエンスアゴラにも出展しました。2回に渡って得た気付きなども書いていきたいと思います。


テーマ設定について 
 詳しくは後述しますが、架橋反応においてその架橋の数を増減することで物質の硬さが変えられるという性質が面白いということ、その性質が日常生活において重要な役割を担っている事を学んでもらうことを基本的な目標としました。
 さらに、ひいては日常の中で役立っている架橋反応以外の科学反応にも興味を持ってもらうことを発展的な目標としました。

実験の設計
 今回は架橋反応の中でもアルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムの架橋反応を扱いました。アルギン酸ナトリウムを塩化カルシウムと反応させると、カルシウムイオン(2価の陽イオン)がアルギン酸同士を橋渡しします。以下は実際に用いた説明用の動画です。
 動画内の赤いキャラクターをアルギン酸、白いキャラクターをカルシウムイオンに見立てています。

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図1.架橋反応の起こる仕組み。アルギン酸がカルシウムイオンにより架橋される。

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図2.塩化カルシウム溶液にアルギン酸ナトリウムの溶液滴を垂らすと、界面で架橋反応が進行する。

 アルギン酸の鎖がカルシウムイオンで所々架橋されると、液体だったアルギン酸
が半固体のゲル状になります。実際の実験では、塩化カルシウム溶液の中に赤色に染色したアルギン酸ナトリウム溶液をスポイトで垂らしました。
 

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図3.アルギン酸ナトリウム溶液(赤色)を滴下している様子。ビーカーの中にイクラ様の物体が浮かんでいる。


図2.で示したように、アルギン酸ナトリウム溶液が界面で架橋反応を起こした結果、液体が柔らかい膜で包まれ、指で押すとプチっと弾けるイクラ様の物体が出来ます。

 私達はここで原理の理解を確認する為の応用の実験を用意しました。赤い塩化カルシウム溶液の中に無色のアルギン酸ナトリウム溶液を加えたらどのようなイクラが出来るか問いかけ、実験をします。
 

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図4.奥が色付きのイクラで、手前が無色のイクラ

 上の画像のように、アルギン酸ナトリウム溶液が無色なので、膜は微かに赤いが、全体としてはほぼ無色のイクラが出来ます。原理を学習した後に透明なイクラの実験をすることで学んだ知識が目の前で実践に代わるような実験に出来たと感じています。

準備した道具
竹串の模型
 分子の自由度と状態変化についてお子さんに1から説明するのは難しいので、橋を糸に例え、物質を竹串に例えて橋が多くなると物質が硬くなるイメージを伝えました。

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図5.実際に用いたもの。2本の竹串を繋ぐ糸が多いほど竹串を自由に動かすのは難しくなる。

ゴムセット
 架橋反応で硬さを変えられる種類のゴムから出来ている市販の製品を集め、子供達に硬さを触り比べてもらいました。例えば輪ゴムを取り出して輪ゴムが硬すぎるとどう困るか、などを話し合いながら架橋反応で硬さを変えられる重要性について話しました。

図6.台所用手袋、風船、消しゴムなどの様々なゴム製品を触り比べた。

プレゼンテーション
 図1,2で示したように架橋反応の内容が苦労なく理解出来るようにPowerPointを用いて説明しました。アルギン酸→「アルちゃん」カルシウムイオン→「カルくん」として、架橋反応がどのように起こっているかを追いました。

お持ち帰りプリント
 当日の内容を家に持ち帰れるようにプリントも用意しました。架橋反応の原理に絞ってスライドを元に作成しました。

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図6.8月持ち帰りプリント。イクラ作りでの架橋反応の仕組みがまとまっています。

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図7.11月持ち帰りプリント。架橋反応自体の性質を説明するように変更されています。

サイエンスコミュニケーション
 サイエンスマルシェではTA1人に対し子供が3-4人で行いました。11月のサイエンスアゴラではTA1人に対し1家族又はグループで行いました。
 後者の形式では、お子さんの理解のペースを見て実験を進められ、掘り下げた話も出来たのが良かった点でした。この形式は一度に沢山のお子さんがいらっしゃるサイエンスマルシェでは難しいですが、どうにかこの経験を生かしたいと思っています。


 最後に、8月では、人工イクラができる原理を説明する事に集中しすぎ、人工イクラで活用されている「架橋反応」の凄さ・面白さを伝えきれなかったという反省がありました。そこで11月では「架橋反応の何が嬉しいのか」をより伝えられるよう、ゴムセットや竹串の模型などを導入してサイエンスコミュニケーションの構成を組み直しました。
 架橋反応の面白さを伝える手段であった実験が、準備を進めるいつの間にか企画の主軸になってしまったのです。サイエンスコミュニケーションにおいて興味を引き付ける面白い実験は便利な手段ですが、その手段と目的が入れ替わらないよう注意しなければならないという大きな学びを得ました。

 

発光について大根から学ぶ

 2019年8月サイエンスマルシェの「大根が光る?−化学発光のしくみ−」では、大根を用いたルミノール反応を体験しながら発光の原理を学ぶ内容を実施しました。発光という身近な現象がどのようにして起きているのかを基底状態励起状態といった量子力学視点で学んでもらいました。

 そもそも、このルミノール反応をテーマとして用いたのは私自身が大学の実験でルミノール反応を体験して面白かったことがきっかけです。私は大学で化学を専攻していますが、元々化学を学ぼうと思ったのは高校の実験が楽しかったからであり、ゆえに化学に興味を持つには実験を楽しく経験することが一番だと思っています。小さなお子さんでも見ただけで変化がわかり楽しめる内容で、化学の道を志すことがなければ学ぶことはあまりない内容ですが、原理も興味深いものだと思い、サイエンスマルシェに適しているのではないかと思いました。ですが、いざ準備に取り掛かると実験・内容どちらに関してもなかなか難しい面がありました。

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図1 大学の実験でルミノール反応を行った時の写真。ルミノール液はフェリシアン化カリウムを触媒として化学反応を起こし青白い光を出す。

 実験については元々、血などを用いて鑑識捜査のような方法でルミノール反応を体験してもらう予定でしたが、実際に魚を購入し捌いて得た血にルミノール液を吹きかけてみたところ上手く光らず失敗に終わりました。また、大学の実験の時に用いた血の代用品であるフェリシアン化カリウムは高価で金銭的に用意するのが厳しく、鑑識捜査のような方法をとることを諦めるしかありませんでした。それ以外の方法としてインターネットで検索したところ大根に含まれるペルオキシダーゼという酵素がルミノール反応の触媒として作用することがわかり、こちらの方法をとることにしました。

 大根が光るというのは準備の時の私たちからしても面白く、楽しいものでしたがそれだけでは大根が光った!というだけで終わってしまい何も学びを得ることができません。発光そのものに興味を持ってもらい、また基底状態励起状態という大学生にとっても理解の難しい概念について少しでも理解してもらう方法を考えるのは大きな壁でした。 基底状態励起状態についてはそのまま理解してもらうというより何かに喩えて伝えようということになり、話し合いを重ね、最終的に人が怒るという状態に例えるという結論になりました。内容が難しく実際にその様子を見てもらうこともできないのでここの説明はよりわかりやすく、また科学的に不誠実な内容説明にならないようにするため、ギリギリまで説明の仕方は話し合いを続けました。

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図2 実際に基底状態励起状態の説明に用いたスライド。安定した基底状態を普段の私たち、不安定な励起状態を怒っている人、励起状態になるために必要な光・熱・化学反応などの事象をストレスなど、発光を泣いたり寝たりといったストレス発散に例え、身近な例で説明をした。

 実は11月の農工大農学部の大学祭でも同じ題材を取り扱った企画を行いました。行った実験と主な説明は8月と同様でしたが、より発光の原理に理解を得てもらうためにサイエンスコミュニケーションの手法を大幅に改善させました。8月は話の導入として蛍光ペンを用いて光っている様子を見せるだけで、ものがなぜ光るのかという疑問を深く考えてもらう時間を設けられませんでした。そこで大学祭では色々な発光物質を持っていき、それらが発光の中でも電気や化学反応、紫外線などいろいろな要因によって光っていることを一緒に確認し、その後それらの共通の発光の仕組みはどこだろうということで、基底状態励起状態のエネルギー差により生み出されていることの説明に移るようにしました。このように変えたことによって、一方的に問いかけるだけでなく一緒に考えながら話を進めることができ、より深い理解を促すことができるようになりました。
 当日は、大根が光る?というタイトルに興味を持って来てくれた子も多く、実際に大根がルミノール反応で光っているところを見て盛り上がってくれました。また、伝えたかった基底状態励起状態については低学年の子にはやはり少し難しかったらしく首を傾げる子も見受けられましたが、高学年の子は原理の方も興味を持って聞いてくれていました。どちらにしても興味を持って聞いてくれる様子が嬉しく、とても楽しかったです。

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図3 8月サイエンスマルシェの当日の様子。大根でのルミノール反応は非常に淡い発光しか出さなかったためブラックボックスの中に入れ一緒にルミノール液を吹きかけて実験を行った。

 企画を終え、振り返ってみるとなかなか最初に決めたテーマに悩まされることが多かったなと感じます。事前の調べ方が甘く実験の試料の調達に苦労をしたり、基底状態励起状態と言った概念はなかなか低学年の子に興味を持ってもらうには難しい内容だったなと思います。8月のときは確かに子どもたちとあまり会話ができず授業のような内容になってしまいましたが、大学祭の時にはもっとサイエンスコミュニケーションをしようと会話を増やすことができて、8月・学園祭の2回を通して成長をすることができたのではないかと思います。
 ルミノール反応も実験としては楽しく興味深いものでしたが、知識が浅くうまく面白さを伝え切れてない部分もあったのではと反省しています。次に企画を行う時は私自身が一番興味をもち今大学で詳しく学んでいるプラスチックなどの高分子をテーマにしたいと考えています。自分が心から楽しいと思っている分野を子どもたちに伝えて興味を持ってもらったり、楽しんでもらえる企画を作ることを目標に、今回の経験を生かしてこれからも活動して行けたらいいなと思っています。

 

いつか習う酸化・還元の理解の手助けに

 今回は、2019年8月サイエンスマルシェの3本柱のひとつ、「くるくる変わる! 赤・青・黄色の信号反応」についてご紹介します。

 

 信号反応とは、シャカシャカ振るだけで水溶液が黄→赤→緑と変色する化学マジックの愛称です。この変化は色素の酸化還元反応に伴って起こります。語呂重視で付けたタイトルの「赤・青・黄色」と、実際の実験の「黄→赤→緑」、どちらにしても順番は合っていませんが、色の種類はいかにも信号機というわけで信号反応です。

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図1 信号反応で「黄→赤→緑」と変わる様子。なんだか垢抜けない写真で、もっと映えるように撮っておけばよかった…と後悔しているものの、これでも見事な色変化。

 8月のサイエンスマルシェは、同日開催の「光る血の秘密を探れ! 化学発光の仕組み」や「プチッと人工イクラ ~架橋反応プチ実験~」と併せて、化学に親しみを持てるような回となっていました。


1. テーマ選定
 企画者の私は、化学工学を専攻しています。化学工学と化学はわりと毛色が違うのですが、化学系と言っていいでしょう。そして、サイエンスマルシェの対象は小学生。自分が企画を持つなら小学校、中学校、高等学校…と化学を勉強するうえで度々触れるような基本的な概念をテーマにしたいと考え、酸化・還元を選びました。

 食品の酸化や金属のさびなど、身近に例があふれているわりには、酸化・還元はなかなかに難しいトピックです。小学校では「燃焼」としてうっすら触れ、中学校では簡単に「酸素の授受」として習い、高校でやっと「電子の授受」として勉強します。大学でもRedox(ReductionとOxidationでレドックス)なんて言って出てきますが、化学系であるはずの自分もまだ奥深くまで理解できている自信はありません。もしかしたら、この記事を読んでくださっている方にも、ご自身あるいはお知り合いがこの分野で躓いたおぼえがあるかもしれません。

 そんな難解なテーマですが、そう遠くない未来、来場者がいつかまた化学に向き合ったときに「はっ…この概念、どこかで……」と思い出してくれれば嬉しいなと考えて企画を作りました。軽くでも一度理解した経験があれば心理的なハードルが下がりますからね。“いつかの手助けに”を本企画の目標として、どのように解説するかを考えていきました。


2. 内容吟味
 まず、“これだけは覚えて帰ってほしい”事項は何かを考えました。これは酸化・還元の本質とは何かを考える作業でした。教科書などでよく見る「電子の授受」という表現はきっと言い得て妙で、私がたどり着いた答えはこちらです。

酸化と還元は2つで1セット。ある物質が電子を受け取ったとき、必ず送り主がいる!

いかがでしょうか。本企画は、これを軸に組み立てられていきました。

 軸が決まれば、次は題材です。
 サイマルに足を運んでもらうからには科学の「体験」を提供したいわけで、説明事項を体感できるような実験は何かなと考えました。そこで抜擢されたのが信号反応です。手軽で酸化・還元を原理とする実験は色々とありますが、どれもノイズが多いといいますか、別途説明しなければいけない前提条件が多い気がしました。その点信号反応は登場人物が少なく、比較的ピュアに酸化・還元の軸を伝えられるような手段になってくれました。そして何といっても信号反応は綺麗で楽しいのです。見てるだけでも楽しいし、自分で振ったらもう本当に楽しい。何度も振っちゃう。

 科学を伝える手段としてはたらくうえに、見映えがよくて楽しい信号反応。本企画にとって優等生の題材だったと思います。


3. 気をつけたこと
 軸が決まり、題材も決まって、話の構成を作り込んでいったわけですが、気をつけた点が特に2点ありました。

① よくある解説図からは離れる
 信号反応は有名なコンテンツで、子ども向け科学教室や中学・高校の化学部などでよく演示されます。私自身も中高の文化祭でやっていた口です。そのため、少し調べるだけでどこかのどなたかによる原理説明がごろごろと出てくるのですが、そこでよくある解説図(図2参照)は本企画にはふさわしくないという問題がありました。

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図2 よくあるタイプの解説図の模式図。色素の構造と呈色の対応に重きが置かれており、色素の反応相手の存在感は薄い。

 本企画では「授受」であることを強調したいので、送り主と受取人を対等に見せられるような図で解説することにしました。

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図3 本企画のスライド。「この世には電子というものがありまして、今日はそれをくまのぬいぐるみで表します!よろしく!」というわけでこういうスライドになっています。

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図4 本企画のスライド。物質名を登場させても電子は変わらずくまちゃんです。「電子は目には見えないけれど、色が変わることから電子が動いたのがわかるよ!」という感じで信号反応の実験につなげました。

 世の中に信号反応の企画は沢山ありますが、本企画のオリジナリティはこの解説図にあらわれているかなと思います。
 そして気をつけたことがもうひとつ。信号反応、実は溶液が勝手に復活します。振ると「黄→赤→緑」と変わりますが、置いておくとすぐにグルコースによる還元で「緑→赤→黄」と戻ります。この帰りの反応を安易に紹介するとミスリードになってしまう可能性に気づいたのです。

② 帰りの反応を伏せてミスリードを防ぐ
 話の軸は「酸化と還元は2つで1セット!」です。具体的に言うと、行きはインジゴカルミンの酸化と酸素の還元が、帰りはインジゴカルミンの還元とグルコースの酸化が同時に起こっているということでした。
 そんななか下手に帰りの反応の印象を残すと、まるでインジゴカルミンの酸化(行き)とインジゴカルミンの還元(帰り)が1セットであるかのように思わせてしまうと懸念しました。
 そこで、帰りの反応の説明は発展編としておみやげ資料に託すことにしました。送り主と受取人がそれぞれ変わるだけなので、対面でおはなししたことの理解があればすんなり適用できるだろうと考えました。

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図5 配布したおみやげ資料。おうちでの振り返りに役立つことを期待して、言葉づかいはやや大人向けです。忘れた頃にも、そして、いらっしゃらなかった保護者の方にもこの1枚で要点が伝わるようにと意識して作成しました。

4. 企画を終えて
 当日、やはり信号反応の体験は大人気で、子どもたちだけでなく保護者の方々のお顔もぱあっと明るくなるのが見られて嬉しかったです。ただ、終盤の実験パートで一気に盛り上がったということは、それ以前の解説パートでの惹きつけが足りなかったということかもしれません。
 サイマルに来てくださるのは小学生で、なかでも低学年~中学年が多く、電子にはまったく馴染みがないであろう層でした。そのため「電子の話は難しすぎるんじゃないか」という心配は企画当初からありました。その点に対して私は、電子の説明は本題ではないので「こういうものがありまして」レベルで流して早々にくまちゃんに置き換えることで解決したつもりになっていました。
 しかし、それが仇となって「結局ずっと知らないものの話だな」と難しく思わせてしまった気がします。私もまだまだですね。今後に活かします。

 また、準備段階で理論の理解や試実験の失敗に悩んだ時、学科の博士後期課程の先輩にだいぶ助けていただきました。ドクターのさすがの考察力を目の当たりにしました。わたしもこれからまた勉強して、高めた専門性をmussetのSC(サイエンスコミュニケーション)活動に還元したいなと思います。あ、いえ、この還元は酸化と1セットではありませんが……。

というわけで、以上、2019年8月の信号反応企画のバックグラウンドストーリーでした。随分長くなってしまいましたが、最後までお読みくださり誠にありがとうございます!
まだまだ連載は続きますので、お楽しみに!